スタイルアイコン
宇宙開発で使用した素材を腕時計に使用したり、レンズ交換機構を備えたサングラスを発明したり。フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェは、50年前に自らのデザインスタジオを設立し、時代に大きな足跡を残すデザイナーとなった。そのスタイルとは。時代を超越、革命的、アイコニック。
「良いデザインは誠実でなければならない」
フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェ
2007年 | Fearless 28
スピードボート「Fearless 28」を一目見れば、ポルシェのスポーツカーのDNAを感じることができる。デザインは、当時の市販車としては前代未聞の出力を誇るカレラGTをイメージしたものだ。
1978 | 年 エクスクルーシブなメガネ
1978年に発売された“エクスクルーシブなメガネ”は眼鏡業界に全く新しいコンセプトを提示した。さまざまな光の状況に対応できるよう、サングラスに初めてレンズ交換機構を搭載したのだ。この時代を超えたデザインは販売数千万本を超える大人気を博した。
2007 | 年 フロアランプ P’7121
リビングルーム用照明コレクションの一つP’7121にはLED技術が採用されている。フレキシブルに光の角度を自由に調整することができるため、状況に応じて、シーリングライト、ウォールライト、リーディングライトとして活用できる。
2003 | 年 ボールペン P’3130
17本の磨き上げられたステンレス製のロッドが胴軸を取り囲んでいるこのP’3130ミカドモデルは、回転繰り出し式シャープペンまたはボールペンとして提供されている。回転機構が作動すると、この17本のロッドがまっすぐになり、芯がロックされると元の位置に戻る。
1989 | 年 TV 55
ポルシェ・デザインは、1989年にグルンディッヒのためにテレビをデザインし、同ブランドの少し時代遅れというイメージを一掃した。スピーカーを一体化し、リモコンも本体に収めるという画期的なデザインだ。ブラウン管の手前に反射防止ガラスを少し離して配置し、画像に二次元性を持たせている。
1979 | 年 スポーツシールド
オノ・ヨーコが世界的に有名にしたサングラス、P8479ではフィルムガラスがフレームに直接ネジ止めされている。1981年には『ローリングストーン』誌の表紙を飾るなど、長い間、オノ・ヨーコはこのサングラスなしで公の場に姿を現すことはなかった。
1983 | 年 パイプ
パイプ愛好家のF. A. ポルシェは、パイプの古めかしいイメージ拭い去るがごとくパイプのデザインも手掛けた。冷却フィンを整然と配列したボウル・トップはアルミニウム製、ボディはブライヤーウッド製だ。タバコの香りをたっぷり楽しめる。
1976 | 年 バイク用ヘルメット CP4
カバーシェルと一体化させることで、上げると同時に、クリーニング機構がバイザーの汚れを拭き、同時にバイザーをダメージから守る構造だ。当時、ヘルメットとバイザーのカラーを自由に選択し、個人の好みに合わせてデザインできるこのヘルメットはセンセーションを巻き起こした。
/
979年のオノ・ヨーコの記者会見をデザイン史に刻んだ重要なアクセサリーがある。P’8479と呼ばれるサングラスだ。それ以来長いこと、故ジョン・レノンの妻であるこの芸術家はこのサングラスをかけず公の場に姿を現すことはほとんどなかった。つまり、このサングラスは彼女のトレードマークになったのだ。
P’8479は、ポルシェデザインが50年にわたり世界に送り出してきた数々のデザインアイコンのひとつにほかならない。1972年に弟ハンス=ペーターとポルシェ・デザインを設立したフェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェはビジョンを抱いた堅実なデザイナーとして知られる。彼は装飾をそぎ落とし、機能性を最優先し、革新的な技術や素材を常に探し続け、純粋主義を公言し、妥協のない品質を追求した。彼のスタイルは今日でもポルシェ・デザインの製品に大きな影響を与えている。しかし、それは彼がデザイン言語をルールとして規定したからではない、“姿勢”それ自体を定義したからだ。ポルシェ・デザインはこの姿勢をもってレンズ交換のための機構を備えたエクスクルーシブな眼鏡など未来の定番をデザインし続けている。因みに全世界で約1100万本販売されたこの眼鏡のデザインは40年以上変わっていない。
2012年に亡くなったデザイナーのサクセスストーリーはすでに子供時代に始まる。あるインタビューで、最初の実験についてこう語っていたことがある。「1949年からの数年間は、おもちゃを買えない時代でした。だから、自分たちでおもちゃを考えて、設計し、作ったのです」。弟のハンス・ペーターは、F. A.を実践的で美的感覚に優れた人物であったと語る。「母が絵を描いたり色を付けたりしなさい、ってイースター用にバスケットいっぱいの卵をくれたことがあるのです。そのときF. A.は金属製の積み木箱を使って、卵を挟んで回転させることができるホルダーのついた機械を作ったのですよ」。目の前の現実から生まれる彼のデザイン哲学、当初から最優先していたのは機能性のようだ。
クリエイティブなデザイナー:
F. A. Porsche at his desk in 1979. His designs were shaped by function and extraordinary materials.
そしてツッフェンハウゼンにあるポルシェの開発・設計事務所での時間が、若き日のF. A.の感性を形成していった。この場所はF. A.にとってのびのびとした創造のスペースだったようだ。「見るもの聞くものすべてをスポンジのように吸収し、ここで仕事をできることに喜び、そして誇りを感じていました」。やがて、若いデザイナーの実験からプロの作品の製作がスタートした。1958年に入社したF. A.は、1962年に新しく創設されたデザイン部門の責任者となり、世界で最も有名なスポーツカーのひとつ、911の決して見間違えることのないラインを描くことになった。
その後、フェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェはポルシェデザインを設立し、そのデザイン活動を自動車からプロダクトデザイン、インダストリアルデザインへと広げていった。しかし、彼のデザインの根底に流れるテーマは常にスポーツカーだった。時計のストラップの革は車のインテリアから、自動巻き時計のローターはホイールの形状から、ケースカラーは車の塗装のオリジナルカラーから。スポーツカーを感じさせるものばかりだ。
F. A.のデザインを見ていると、そこからは精密、実践的といった彼の哲学が浮かび上がってくる。、F. A. はフォルムが完成している製品に「装飾は必要ない」と言っている。デザインアイコンとなったポルシェ・デザイン製品第一弾、クロノグラフ I も、その信念を感じさせてくれるものだ。世界初の黒一色のデザインは、その後、何世代にもわたって時計デザインに影響を与えている。
コンタックスRTS 1
若きスタート・アップ、ポルシェ・デザインが1974年に手掛けた初のカメラデザイン。写真技術が急速に発展していた当時、豊富な機能を整然とした美しさのなかに収める、という難しい課題にチャレンジし、純粋な機能性を美しくまとめた35mm一眼レフカメラ「コンタックスRTS1」が誕生した。
50Y タルガ・レザージャケット
ポルシェ・デザインがその50周年を記念しMeindl社と共同でレザージャケットをデザインした。この数量限定ジャケットのカットは、伝説の911タルガをイメージしたものだ。カーフナッパレザー、伸縮性をもたせた裾部分、襟の裏にさりげなくエンボスされた“50 ポルシェ・デザイン”ロゴがエクスクルーシブ感をアピールしている。
プレミアム・ライン
1995年、ポルシェデザインはBosch-Siemens-Haushaltsgeräte社の依頼を受け、小型キッチン家電シリーズをデザインした。トースター、コーヒーメーカー、ケトル。草案の段階で特に、アルミニウムの押し出し材を使用するという革新的なアイディアがコスト面での懸念材料となっていたが、生産に踏み切り、本来10万個の販売が予定されていたケトルは最終的に120万台も売れた大ヒット商品となった。
BOUNCE:S
2008年、アディダス社とのコラボレーションでランニングシューズ「Bounce:S」が誕生した。同年、このスニーカーは多くの賞を受賞し、タイムズ誌の「今年のイノベーションベスト50」にもその名を連ねることになった。では一体何がイノベーションだったのだろう?自動車のサスペンションからアイディアを得てシステムポルシェ・エンジニアリング・グループと共同で開発したショック吸収システムだ。
50Y Porsche Design. It’s about time
ポルシェデザインがその創立50周年を記念して、『 50Y Porsche Design. It‘s about time.』が出版される。ドイツ語と英語の二ヶ国語版で、デザイン業界を形作ってきた同社の50年の歴史を探るべく、ジャーナリスティックなレポートや、このブランドの仕掛け人、F.A. ポルシェの人物像など興味深い内容の一冊だ。デザインの歴史を巡るこのタイムトラベルのようなこの一冊は、porsche-design.comのショップから注文可能だ。
ロードスター・ハードケース
2015年にデザインされたロードスター・ハードケースのデザインがポルシェ・デザインのものであることは実物をみれば納得してもらえるだろう。軽量、堅牢、確固たる安定性。シェルを硬くして抵抗力を与えてくれるそのリブ構造は、スポーティかつエレガントなデザインエレメントでもある。キャスターにはダブルボールベアリングを採用し、極めて滑らかな転がりを約束する特殊コーティングも施されている。
チタン製クロノグラフ
「クロノグラフI」で世界的な成功を収めたポルシェ・デザインは、1980年に「チタン製クロノグラフ」を発表した。チタンは特にエクスクルーシブな素材であり、それをアピールするかのようにTITANと時計にもはっきりと刻まれている。また、操作ボタンが時計のフレームと一体化させたのも当時はセンセーショナルなものだった。それ以来チタンは時計業界にはなくてはならないハイグレード素材としてその地位を確立した。
ポルシェ・デザイン・タワー・マイアミ
ポルシェ・デザイン初の建築プロジェクト、マイアミのポルシェ・デザイン・タワー。機能的なデザイン、技術革新、未来を見据えた技術というブランドの典型的な特徴が見られるこの建物は、Dezer Development社と共同で2017年に建設された。見どころは、居住者をポルシェごとペントハウスまで運んでくれるエレベーター、「デゼルベーター」だ。このプロジェクトは第一弾、現在すでに、第二弾となる次のポルシェ・デザイン・タワーがドイツ、シュトゥットガルトに建設されている。高さは90mになる予定だ。
/
ポルシェ・デザインの創設を機に、ポルシェ一族は自動車メーカーの経営から手を引くことになった。新時代の始まりだ。F. A.は時計、眼鏡、万年筆など、現代、そして未来の定番アクセサリーを生み出していった。現在のポルシェ・デザインは、歯ブラシ、香水、トースター、やかん、コンピュータ、ファッション、さらにはマイアミにあるポルシェデザインタワーのような建物全体のデザインに至るまで、製品ポートフォリオを大きく広げている。フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェは機能性だけではなく、常に特別な素材を追求していった。その顕著な例は、1980年
に当時は宇宙開発でのみ使用されていた金属、チタンを使った市場初のチタン製クロノメーターだろう。フェルディナンド・アレクサンダー・ポルシェは、自身の機能性を追求する願望をこの素材に見出したという。これはTecFlexまたはシンプルにP’3310と呼ばれているボールペンにも見ることができる。このステンレス製メッシュを採用したペンは、日常性を超越した新たな定番としてその地位を確立している。
これらの定番のひとつひとつはF. A. ポルシェの偉業として認識されている。彼の姿勢がスタイルを定義しているからこそ、彼のスタイルはブランド・アイデンティティーの一部として今も息づいているのだ。そんなスタイルのデザインには、「妥協のない誠実さ」「革新的でコンセプチュアル」「ピュア主義の贅沢」「時代を超えた高品質」などが求められる。この原則は、今日に至るまで、ポルシェ・デザインのすべての製品に貫かれているデザインランゲージだ。これらの原則そのものが、象徴的なシンプルさを体現している。F. A. ポルシェはそのデザイン哲学に関してこんな言葉を残している。「モノの機能を考えれば、それだけでフォルムが自然に浮かび上がってくる」。
ポルシェ・デザイン
ポルシェ・デザインは、 1972年にフェルディナンド・アレキサンダー・ポルシェとその弟ハンス=ペーターが設立した高級ライフスタイルブランドだ。ポルシェ・ライフスタイルとオーストリアのツェルアムゼーにあるスタジオF. A.ポルシェとともに、ポルシェ・ライフスタイル・グループが運営している。今日に至るまで、ポルシェのデザイン製品はすべてスタジオF. A. ポルシェで作られている。ツェルアムゼー、ベルリン、ルートヴィヒスブルク、ロサンゼルス、上海に拠点を持ち、海外のクライアントのためにもデザインを手掛けている。