ICON:スターのヘルメット

ブルーのヘルメットに、バイザーを取り囲むようにして散りばめられた煌びやかなホワイトスター。ポルシェ・レジェンドのひとり、ハンス=ヨアヒム “シュトリーツェル” シュトゥックのために用意され、ファンがひと目で彼だと見分けられるようにデザインされた最初の “シグネチャーヘルメット” である。

  


ガールフレンドだったアンネマリー “ムッキー” ブッフナーのセンスなくして、シュトゥックのヘルメットに星が刻まれることはなかっただろう。シュトゥックが 50 年前の出来事を振り返ってくれた。「私はムッキーとホッケンハイムにあるホテルの一室でスポンサーが提供してくれたヘルメットを前に考えていました。ブルーメタリックのカラーはとても素敵でしたけど、ヘルメットをもっと目立たせるためにはどうしたらよいか、二人でアイディアを出し合っていたのです。そしてムッキーが星のアイディアを思いついたのです」。ムッキーは早速、サーキットの近くにあった文房具屋を訪れ、白のカッティングシート を一枚購入すると、ホテルに戻ってくるなり裏面にフリーハンドで星を鉛筆で描き、爪切鋏で丁寧にカット。星を一枚一枚バイザーに沿って貼っていった。かくして、モータース ポーツ史上最もユニークで、後に数多くの幸運をもたらすことになるオリジナルデザインのヘルメットが誕生したのである。

ポルシェのワークスドライバーを任されたシュトゥックは、この後、ホッケンハイムリンクで数々の成功を収め、“キング・オブ・ホッケンハイム” の称号を手に入れ、ティームメートのデレック・ベルと共に 1985 年の世界耐久選手権タイトルを獲得。1986 年と 87 年にはベルとアル・ホルベルトと共にポルシェ 962C を操り、ル・マン 24 時間レースで総合優勝を果たす。星が散らばる彼のヘルメットはアメリカ合衆国の国旗にも通じるデザインだったため、特にアメリカのメディアから出自を問われたそうだが、現在 68 歳のシュトゥックは次のように述懐している。「本当のところは分かりません。ただ、ムッキーのインスピレーションが星条旗に基づいていなかったことは確かです」。

ヘルメットにまつわる流儀は、息子のヨハネス(33)とフェルディナンド(28)にもしっかり受け継がれている。ハンス=ヨアヒム“シュトリーツェル”シュトゥックは 2011 年に現役を退いたが、記念すべき舞台に選んだニュルブルクリンク 24 時間レースのスタートラインにはよく似たデザインのヘルメットをかぶる息子たちの姿があった。よく見ると、そのデザインは父親のものとは少し違っている。シュトゥックは嬉しそうに目を細めて言う。「そうです、彼らのヘルメットには星の横に白いストライプが加わっています。息子たちが家族の伝統をこのような形で継承していってくれて、素直に嬉しいですね」

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Thomas Lötz
Thomas Lötz