何がタイカンターボ GTを史上最もパワフルなポルシェにしている?
タイカンターボGTのトップパフォーマンスを可能にした様々な最適化。そのなかでも大きなものは、900アンペアとこれまで以上の電気パワーを供給しリアアクスルを駆動させる電気モーターだ。
史上最もパワフルな市販ポルシェとして、新型タイカンターボGTは猛烈なエレクトリックパワーで4輪を駆動する。パフォーマンスに焦点を絞り込んだこのスポーツサルーンは、これまで並外れたフル電動パワーハウスととして高く評価されてきたトップアスリート、最高出力700kW (952PS; Taycan Turbo S (2024): 電力消費量 複合(WLTP) 20.5 – 17.9 kWh/100 km, CO₂ 排出量 総合(WLTP) 0 g/km, CO₂ class A )のタイカンターボSに大きな差をつけトップに躍り上がる。
「一部のお客様がより研ぎ澄まされたパワーを備えたトップモデルを求めていることを認識しました」と語るのは、タイカンの特別仕様車を担当する技術プロジェクトマネージャー、クリスチャン・ミュラー。「パフォーマンスの向上は、パフォーマンスを徹底追及するトップモデルでは然るべき要素のひとつです。だからこそ、私たちは開発の非常に早い段階からこの点に取り組み始めました」。
ターボSからなんと最大2秒間に対して最大115kW (156PS; Taycan Turbo GT: 電力消費量 複合(WLTP) 21.6 – 20.7 kWh/100 km, CO₂ 排出量 総合(WLTP) 0 g/km, CO₂ class A )アップ。電気駆動でどうやってこんな偉業を成し遂げることができたのだろう。6気筒水平対向エンジンのような従来のガソリンエンジンをパワーアップするには、排気量を増大し、エンジン回転数を上げ、フリクションロスを下げる、あるいはターボジャージャーを使うといった基本的なコンセプトがある。しかし、電気モーターの場合はそんな既存のコンセプトは何の役にも立たない。
ミュラーと彼のチームが最初に注目したのは、リアアクスルにある電気モーターのインバーターだった。105kWhの高電圧バッテリーの直流電圧を交流電圧に変換し、電気モーターを制御する部品だ。タイカンターボ Sは600アンペア(A)のインバーターを使用している。ターボ GTの新しいコンポーネントは、最大900Aだ。つまり、パワーアップしたポンプのように、より多くの電気エネルギーを電気モーターに送り込んでくれるというわけだ。同時に、インバータの半導体材料として、ケイ素の代わりに炭化ケイ素が使用されている。これはスイッチング損失を低減し、サイクルを高速化する。これにより効率がぐんと上がり、それに伴い連続出力がアップする。ミュラーは「これは現時点での開発の最先端です」と得意げに言う。
聞いてみればなるほど、と思うが、それを実現するのは簡単なことではない。「新しいインバーターはこれまでのものより厚みがあるので、これを組み込むためには、ボディシェルに手を加えなければなりませんでした」とミュラーは言う。これにより、リアトランクのホイールアーチの間に”パワードーム”と呼んでいるちょっとした隆起を設けました。私たちはこれを洒落たフォルムの収納スペースとして使い、そこにはターボGTのレタリングも施しました」。
900Aの大電流を受ける永久励磁同期機は新しいインバーターにぴったりと調整、最適化されている。これにより高回転域までパワーを発生しポルシェらしいパフォーマンスを見せてくれる。また、エキスパートたちはリアアクスルの2段式トランスミッションにも力を注いでくれた。「入力トルクが大きいわけですから負荷も大きくなります。歯車一式の表面処理やベアリングの調整、クラッチを強化するなどして、トランスミッション構成部品の堅牢性を高めました」とクリスチャン・ミュラーは語る。エンジニアたちは、既存のトランスミッションハウジングの設置スペースをそのまま維持しながら、これらすべてを実現してくれた。「これに加え、フロントアクスルにも細かく改良を施して、ギア比を上げ最高速度を305km/hと大幅にアップしました」。
アンダーボディに手を加え、フロントとリアのスポイラーを新しくすることによってエアロダイナミクスを向上させることから始まり、軽量セラミックブレーキ、専用の21インチ鍛造ホイールに履かせた特別なパフォーマンスタイヤ、そしてその他のインテリジェントな軽量化の工夫など、すべての細かい工夫や調整を通して、きれいに整った全体像が浮かび上がる。特にタイカンターボGTのような高性能スポーツカーの性能アップはこのようにして実現されるのだ。
ストイックなヴァイザッハパッケージを装備したタイカンターボ GTは、これをさらに極限まで高めている。このパッケージになるとサーキットで最大限のパフォーマンスを発揮するために、不要な装備はすべて省かれる。リアシートさえも時間を犠牲にする不用品だ。その結果、ヴァイザッハ・パッケージの有無でのターボ GTの重量差はなんと70kg。ヴァイザッハパッケージはギリギリまでスリムダウンされたモデルというわけだ。
パフォーマンスを包括的に最適化したこのターボGTのキャラクターは“野獣”と言えばぴったりとくるかもしれない。BEVセグメントのトップアスリートは580kW (789PS; Taycan Turbo GT with Weissach package: 電力消費量 複合(WLTP) 21.3 – 20.6 kWh/100 km, CO₂ 排出量 総合(WLTP) 0 g/km, CO₂ class A )で推しまくる。ローンチコントロールを装備したターボ GTがスタートを切ると、瞬時に760kW (1,034PS)のパワーが炸裂する。しかもその最大2秒間はオーバーブーストパワー、815kW (1,108PS)に達するというのだから、まるでロケットの発射だ。ヴァイザッハパッケージ装備なら、時速100kmまでを2.2秒でこなす。ヴァイザッハパッケージを装備していないタイカンターボGTよりも0.1秒速い。また、その2シーターがパッケージ装備車は時速200kmに達するまではわずか6.4秒で、タイカンターボSより1.3秒早い。
ドライバーがアタックモードをオンにすれば、さらに10秒間、最大120kW (163PS)が用意される(前提条件:バッテリー充電レベルが 30 パーセント以上、バッテリー温度が摂氏 10 度以上。低温時のスポーツおよびスポーツプラスドライビング モードの利用可能性を最適化。サーキットでの使用のみを推奨)。ただし、これらは815kW (1,108PS)に加算されるのではなく、オーバーブーストパワーとローンチコントロール以外の部分で使うものだ。
クリスチャン・ミュラーと彼のチームがフォーミュラ Eのポルシェ 99 X エレクトリックから取り入れた機能だ。4秒間休ませれば、再びこのパワーを呼び出すことができる。「時間を制限することによって、エンジンとバッテリーにかかる熱負荷を抑えています」とミュラーが説明する。
コースでタイカンターボ GTのポテンシャルをフルに体験したい人のためにもう一つ、周回コースモードという便利なモードも用意されている。このモードではトラクションバッテリーと駆動系が最適な始動温度にウォームアップされる。例えばニュルブルクリンク北コースなら摂氏13度弱。クリスティアン・ミュラーが大きな笑みを浮かべる。「タイカンターボ GTのハンドルを握るドライバーは、従来の駆動システムを搭載したスポーツカーに推奨されているウォームアップを行う必要がないというわけです」。
燃料消費量
Taycan Turbo GT
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21.6 – 20.7 kWh/100 km
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0 g/km
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A Class
Taycan Turbo GT with Weissach package
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21.3 – 20.6 kWh/100 km
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0 g/km
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A Class
Taycan Turbo S (2024)
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20.5 – 17.9 kWh/100 km
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0 g/km
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A Class